第4回 満月まつり ポスター原画
   画:磯崎主佳 
作者の許可を得て掲載しています。
(ポスターでは水彩ですが、これは色鉛筆の彩色です。クリックすると大きくなります。)



7 真姿の池 湧水群。

 小金井街道、五日市街道、国分寺街道と通って国分寺駅の南側に出、野川を渡る橋から西へ折れた。御鷹の道は野川の源流の一つだが、ここで野川に沿っていって私は間違えに気づく。そうだ、こちらを辿ったら恋ヶ窪を経て、日立の研究所の方向へ行くわけだ。少し後戻りして無事御鷹の道に出た、がその直前に数年前にも見た景色に出会い足を止める。舗装道路の下をくぐった小さな流れが駐車場の付近を蛇行して御鷹の道に合流しているのだ。その小さな流れを逆に辿ると金網の北側の「K理学研究所」の敷地になっているのだ。
 南向きの斜面は国分寺崖線、ちょっと西表の森にも似た雰囲気。日が傾き始めているので、この気がかりは後に残したまま御鷹の道を辿って弁財天の所へ行く。
 小径を北へ折れると左が池と社で右が湧水、その湧水の上にも小さな鳥居はある。両方に挨拶して容器に清水を戴く。ここは良く大きなペットボトルをもって水汲みに来る人々がいるところだが、今日は水質検査をしに来たらしい長靴の人が一人いるだけ。森の中、崖線の下であるから相当暗くなってきた。
 自転車で戻る道すがら犬の散歩の人に会う。と先程の駐車場の脇で犬を放して遊び始めた。よく見ると金網の縁に小径がありそうだ。自転車を駐車場の隅に置いて、探検気分で入って行く。案の定、人の踏み跡がある。金網に沿って30m程で清水の場所が見えた。そこだけ崖が後退していて木もまばら、琉球なら間違いなく拝所になっているだろう。いや、ここもかつてはそうであったに違いない。レンズを網の目にはめ込んでシャッターを切る。
 わき出した水が金網からこちらに流れてきているところで水を戴く。空の容器を二つ残すために先程の容器の水を半分捨ててここのを足すことにした。
 金網沿いに行くと、やがて上り坂でハケの上に出た。東側に森が開けていて国分寺駅の高層ビル、さらに新宿のビル群が見えた。本当に人の多いところに住んでいると実感、しかしここには木と水と風と私。さらに網沿いに行くと研究所の門の方へ行く。大手の補聴器の会社だった。古くからあるように思える。野川の本流の方の水源は国分寺駅の西北にある電器関連の大手製造会社の研究所にあると聞いている。研究所と水には何か関係があるのだろうか。
 巡回中の警備員がゆっくり歩いていたのでこちらから声を掛け、通ってきた道のことを言うと、金網から離れた方は大きなお屋敷で入っていかない方がいい、と忠告された。のんびりした会話だと我ながら思った。


8 野川公園内の清水。

 さあ暮れてくるぞ、と月はもう上がっていた。10日の月だ。
 東元町、前原と通って東八道路で野川公園へ。余裕があればお気に入りの鯨山の柳なども眺めたかったが先を急ぐ。
 湧き水の近くでは薄暗い中、小学生だろう、子供達が男女混じって遊んでいる。いや、耳に入る会話からすると本人達は真剣になにかもめているようだ。不意に走っていく男の子を全速力で女の子が追いかけたりしている。恐れ、憤りなどが心にあるのだろうけれど、場所柄か、とげとげしさが感じられない。自分も口論やケンカするならアスファルトの上ではなく土の上で、コンクリに囲まれてではなく緑に包まれたところでしたいものだと思った。
 月影がはっきりしてくる。湧き水を撮ろうとして白いビニルが目に付く、何でこんな所においていくのかなぁ、捨てよう、と石をどけて取り上げると中には大き目の沢蟹が二匹。袋ごと元に戻してすぐ近くのもう一つの湧水を撮ることにした。
 二箇所の湧き水で容器に半分ずつの水を詰めて野川での採集は完了。
 広いところに戻って自転車と空を入れた写真も撮った。子供達も入れたかったのだが、とにかく走る走る。フレームには収まらなかった。
 野川沿いに下っていく。ここでも別な一団が網で生き物を捕ることに興じていた。
 「子供は風の子」という言葉があるが、さしずめここでは「子供は水の子」だな。


9 深大寺の湧水

 野川を下るうちに日が暮れる。深大寺にも数か所湧き水があるようだが、はじめに幣の着いた綱(注連縄と言って良いのだろう)の渡してある湧水池を見つけて容器に半分の水を汲む。続いてさらに東側、深大寺小学校の南西側「不動の滝」から流れ出る水を足下で採集して容器を満たす。これで今日四本目の容器も満たされた。両方の場所で写真を撮るも闇の中の水場はどうしても不気味な感じに写ってしまう。ストロボを焚いても焚かなくても。一応の画像は得られたので、一人人気のない裏の参道を家に向かう。


10 四つの容器を速達。

 明るい部屋にはいり、区別が付くように四つのポケットに入れて置いた容器を順に出しながらシールを貼る。これで郵送できる。三鷹郵便局のポストは夜八時の収集があったはず、それに間に合うように短い手紙を付けて「満月まつり」実行委員に速達で送る。



11 明るい光の下、深大寺へ。


 光量不足だった写真を撮り直すべく翌朝、深大寺へ。素晴らしい紅葉だ。植物公園敷地に蔦植物の絡まる大樹が数本。こうやって森は活きているのだ。
 不動の滝で水を吐いているのは竜ではなく獅子。なかなか良い面構えである。落ちる葉が写真に写ったようで意外な効果。
 深大寺の敷地にはいるとひらひらと落ちる葉以外に回転しつつゆっくり落ちてくる物もある。楓の実かしら、と目を凝らしていると、短い枝に数枚の葉が付いたまま落ちてくるのだった。黄色い色も鮮やかな欅であった。それが茅葺き漆喰塗りの建物の前に落ちてくる。
 声を出して何か念じている女性もいた。紅葉を撮りに来た写真家はずっとファインダを覗いている。本堂は唐破風で首里城に似ている。工事中だった。とにかく紅葉の美しい寺。
 注連縄のしてある湧水池も撮影。門前の通りの蕎麦屋の様子もデジカメに収めて、昨日の水の旅の締めくくりとした。
 今頃、あの四本の容器に詰めた水は羽田を飛び立った頃だろうか。昼には奄美、山原の清らかな湧き水の上空を通過し、左の眼下に久高、知念、玉城を眺めながら那覇に降り立つことだろう。




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