静かなる夜の市場で、嘉手苅林昌さんが歌い出すのは、ご存じ「ラッパ節」 もしもしちょいと すみこさん わたしゃ貴女に ほうれんそう 察してちょうだい この胸を ぼくハートは ワクワクよ (作詞 小浜守栄) 高嶺剛監督「嘉手苅林昌 唄と語り〜もしもしちょいと林昌さんわたしゃアナタにホーレン草」 前回は、西南戦争、鹿鳴館時代から、日清日露の時代、「カルメン」→「抜刀隊」→「ノルマントン号事件の歌」→「ラッパ節」まで、旋律の替え歌の話でしたが、その続き、今回は琉球音階の「ラッパ節」で話を続けます。 三線(ない方は何か音階の出るもの)の準備はよろしいでしょうか。調絃は三下げで(低い方から、B E A)。 合中 工中 工合 五七 五工 上工 五合 五七 合老 四合 四上 工五 工上 四老 四合 四五 四七 四七 八四 八九 八四 七五 工合 工中 工四 合中 工五 四七 八七 八四 八八〜 移動ドで、その旋律の音を追うと ミ ファ ソ シ とか ソ ファ レ ファ ソ とか シ ド レ ファ ソ とか シ ド レ ド シ ソ ファ ミ ファ ド ミ ファ ソ シ ド レ ド 整理すると ド レかミ ファ ソ シ ド レ (*) 世間でよく言う琉球音階に比べて違っているのは「レ」に重さがあることです。 この調絃(三下げ)では主音〔根音)は中絃(四)と考えて良いでしょう。その場合「レ」は上や九ですね。 以前「いきなりの増四度!」と書いた「戦友」も実は同じ音階なのです。ただし本調子、つまり主音(根音)は男絃と女絃だったので、印象は違って感じられるかもしれません。 「戦友」(本調子で) 四四 四○ 尺尺 尺○ 工○ 工五 工○ ○○ 五五 工五 尺○ 工尺 上○ 尺上 四○ ○○ 七七 七○ 五工 尺○ 上尺 工五 工○ ○○ 老四 老四 上○ 尺上 四○ 四老 四○ ○○ さっきの整理した音階(*)をこの本調子の工工四で書けば 合 乙か老 四 上 尺 工 五 工 五か六 七 〜 三下げでは 四 上か中 工 五 七 八 九 というわけです。 もしも「らっぱ節」を、大和で大正時代にはやった雰囲気の音階〔律あるいは呂と呼ぶもの、五音階)で弾くのなら、そう、二揚げで行ってみましょうかね。 ○老 四四 四○ 四工 上四 老四 上○ ○○ ○乙 乙老 四○ 上四 老四 老乙 合○ ○○ ○工 五五 ○工 六六 五工 上上 四○ ○○ ○工 上上 四老 四上 ○工 五五 五○ ○○ だいぶ感じが変わりますねえ。 音階ばかりでつまらん、という向きに今度は歌詞のお話を。 小浜守栄氏のこの替え歌は、いかにもアメリカ世ゆーの歌詞であります。 一番では「胸」→「ハート」、二番では女が「プロポーズ」するからにゃ「ダンス」できるんでしょ?と問えば、三番で男は加速して「キャデラック」「ツイスト」「マンボ」「ブルース」と片仮名の氾濫、四番で女が「ワンダフル」抱きしめて、と見事に意気投合し、五番で「ジェット機」に乗り「パリ」から世界一周して「スイートホーム」構えようと男。 そして二人で歌う最後の二節は、聞いていても可笑おかしいやら切ないやら。 文明邸宅 広々と 家庭電化も 完備して 金襴緞子きんらんどんすの ドレス着て 三度の食事も あちら並 文明開化の この御代みよに 狭い地球は 住み飽きた 火星、木星、 金星と 晩年は月で 隠居しょう 「ヘイ 二歳達にせーたー」一人乗り三輪車の暴走とすれば、こちらは二人漕ぎタンデム自転車の急加速、そして離陸、いや発射、とでも言うべきか。 いやいや逆に投げやりな態度、一種の逃避の歌詞に悲哀を感じるか、さて、みなさんのご感想は? しかも、この歌を現代、施政権返還三十年の時代に楽しく楽しく歌う林昌さん(と大城美佐子さん)の心に去来するものは何か。はてさて、それをまた、高嶺監督はビデオ作品の題名にまで使っているのだから、我らが感じるべき事の手がかりはいくらでもあると言うべきか。 らふてには自分の読み方があるんだろうって、皆さん思いました?残念ながら、私には確たる読み方はないのです。が、何回見てもこのビデオは林昌さんの歌と語りのリラックス、脇の人々との呼吸の通わせ方、見応えあるのだよなあ。 さて、前回予告の「十九(重苦)の春」やら「水平主義者チンドン」と「ああ玉杯」の寮歌軍歌革命歌のおはなしは次回以降と言うことで、今回はここまで。 ご機嫌よろしゅう、またヤー。 【参考】 「嘉手苅林昌 唄と語り」(ビデオ) (もしもしちょいと林昌さん わたしゃアナタにホーレン草) 高嶺剛監督セスコジャパン制作 「日本の歌」 NHKBSの番組 97年放映 |
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