■替え唄 続くよ どこまでも【その2】


                     ぼくの好きなうた(連載第56回)  らふて いさを                   



 静かなる夜の市場で、嘉手苅林昌さんが歌い出すのは、ご存じ「ラッパ節」

 もしもしちょいと すみこさん
 わたしゃ貴女に ほうれんそう
 察してちょうだい この胸を
 ぼくハートは ワクワクよ

  (作詞 小浜守栄)
   高嶺剛監督「嘉手苅林昌 唄と語り〜もしもしちょいと林昌さんわたしゃアナタにホーレン草」

 前回は、西南戦争、鹿鳴館時代から、日清日露の時代、「カルメン」→「抜刀隊」→「ノルマントン号事件の歌」→「ラッパ節」まで、旋律の替え歌の話でしたが、その続き、今回は琉球音階の「ラッパ節」で話を続けます。
 三線(ない方は何か音階の出るもの)の準備はよろしいでしょうか。調絃は三下げで(低い方から、B E A)。

 合中 工中 工合 五七 五工 上工 五合 五七
 合老 四合 四上 工五 工上 四老 四合 四五
 四七 四七 八四 八九 八四 七五 工合
 工中 工四 合中 工五 四七 八七 八四 八八〜

 移動ドで、その旋律の音を追うと

 ミ ファ ソ シ とか
 ソ ファ レ ファ ソ とか
 シ ド  レ ファ ソ とか
 シ ド  レ ド  シ ソ ファ
 ミ ファ ド ミ ファ ソ シ ド レ ド

 整理すると

 ド レかミ ファ ソ シ ド レ (*)

 世間でよく言う琉球音階に比べて違っているのは「レ」に重さがあることです。
この調絃(三下げ)では主音〔根音)は中絃(四)と考えて良いでしょう。その場合「レ」は上や九ですね。
 以前「いきなりの増四度!」と書いた「戦友」も実は同じ音階なのです。ただし本調子、つまり主音(根音)は男絃と女絃だったので、印象は違って感じられるかもしれません。

「戦友」(本調子で)
   四四 四○ 尺尺 尺○ 工○ 工五 工○ ○○
 五五 工五 尺○ 工尺 上○ 尺上 四○ ○○
 七七 七○ 五工 尺○ 上尺 工五 工○ ○○
 老四 老四 上○ 尺上 四○ 四老 四○ ○○

 さっきの整理した音階(*)をこの本調子の工工四で書けば

 合 乙か老 四 上 尺 工 五
             工 五か六 七 〜

 三下げでは

 四 上か中 工 五 七 八 九

 
というわけです。

もしも「らっぱ節」を、大和で大正時代にはやった雰囲気の音階〔律あるいは呂と呼ぶもの、五音階)で弾くのなら、そう、二揚げで行ってみましょうかね。

 ○老 四四 四○ 四工 上四 老四 上○ ○○
 ○乙 乙老 四○ 上四 老四 老乙 合○ ○○
 ○工 五五 ○工 六六 五工 上上 四○ ○○
 ○工 上上 四老 四上 ○工 五五 五○ ○○

   だいぶ感じが変わりますねえ。
 音階ばかりでつまらん、という向きに今度は歌詞のお話を。
 小浜守栄氏のこの替え歌は、いかにもアメリカ世ゆーの歌詞であります。
 一番では「胸」→「ハート」、二番では女が「プロポーズ」するからにゃ「ダンス」できるんでしょ?と問えば、三番で男は加速して「キャデラック」「ツイスト」「マンボ」「ブルース」と片仮名の氾濫、四番で女が「ワンダフル」抱きしめて、と見事に意気投合し、五番で「ジェット機」に乗り「パリ」から世界一周して「スイートホーム」構えようと男。
 そして二人で歌う最後の二節は、聞いていても可笑おかしいやら切ないやら。

 文明邸宅 広々と
 家庭電化も 完備して
 金襴緞子きんらんどんすの ドレス着て
 三度の食事も あちら並

 文明開化の この御代みよ
 狭い地球は 住み飽きた
 火星、木星、 金星と
 晩年は月で 隠居しょう

 「ヘイ 二歳達にせーたー」一人乗り三輪車の暴走とすれば、こちらは二人漕ぎタンデム自転車の急加速、そして離陸、いや発射、とでも言うべきか。
 いやいや逆に投げやりな態度、一種の逃避の歌詞に悲哀を感じるか、さて、みなさんのご感想は?
 しかも、この歌を現代、施政権返還三十年の時代に楽しく楽しく歌う林昌さん(と大城美佐子さん)の心に去来するものは何か。はてさて、それをまた、高嶺監督はビデオ作品の題名にまで使っているのだから、我らが感じるべき事の手がかりはいくらでもあると言うべきか。
 らふてには自分の読み方があるんだろうって、皆さん思いました?残念ながら、私には確たる読み方はないのです。が、何回見てもこのビデオは林昌さんの歌と語りのリラックス、脇の人々との呼吸の通わせ方、見応えあるのだよなあ。

 さて、前回予告の「十九(重苦)の春」やら「水平主義者チンドン」と「ああ玉杯」の寮歌軍歌革命歌のおはなしは次回以降と言うことで、今回はここまで。
 ご機嫌よろしゅう、またヤー。


【参考】
「嘉手苅林昌 唄と語り」(ビデオ)
   (もしもしちょいと林昌さん わたしゃアナタにホーレン草)
  高嶺剛監督セスコジャパン制作
「日本の歌」 NHKBSの番組  97年放映

   

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